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研究の覚え書き、その六(「癒し音楽」の仮説)

 この前ゼミがあって、研究方針はこれで良しといわれたので、そのとき立てた仮説を載せようと思う。

4 癒し音楽の音楽的特徴とその検証

1 はじめに
 現在の社会は、ストレスの多い社会と言われている。そのような中で、リラクゼーションに関する関心が高まっている。その一つの方法として音楽があげられるだろう。ヒーリング音楽やリラクゼーション効果などを謳った商品が、数多く店頭に並んでいることからもこのことが分かる。音楽はTV、商店やレストランのBGMなど、我々の身近なところで利用され、音楽を耳にしない日がないほどとなっている。このように日常よく利用され、我々に生活に浸透している音楽だが、どのような曲が人の心を癒すのだろうか?。本研究では、音楽を利用した癒しについて、音楽の重要な構成要素であるテンポとメロディの両観点から考察したい。
 テンポについては先行研究によって、その違い(早いテンポ、遅いテンポ)による感情の変化について調査されている(Balch & Lewis,1999;Balkwill & Thompson,1999;Husain,Thompson,& Schellenberg,2002)。これらによれば、速いテンポは「活力」や「活発」などの覚醒に関連した感情を起こさせ、遅いテンポは不活性的な落ち着いた、沈静的な気分にさせる事があげられている。
fig1
 メロディに関しては、Balkwill & Thompson(1999)が複雑なメロディは「怒り」や「悲しみ」の感情に関係があり、シンプルなメロディは「ポジティブ感情」や「喜び」「穏やかさ」などの感情に関係がある事をあげている。また松田・厚味・,鈴木(1998)は「心が安らぐ」「心がいやされる」音楽について調査しているが、上位三位までにあげられた曲(エンヤ・ウオーターマーク(fig1参照)、リスト・愛の夢第3番、神山・水色の幻想)を調査したところ、メロディはシンプルであることが分かった。メロディの複雑とシンプルさには、聴取後の感情に与える何らかの影響があると思われる。
 Thompson,Schellenberg,& Husain(2001)はモーツァルトの K448(ピアノ・ソナタ、ニ長調,fig2参照)とアルビノーニのAdagio ト短調 for Organ and Stringsの両作曲家による曲を使って、聴取子の気分変化の差を調査している。その結果、モーツァルト聴取群は活性的な気分が高まり、アルビノーニ聴取群は沈静的気分が高まったと報告している。これらの曲をメロディの複雑さとテンポから見てみると、K448はメロディが複雑でテンポが早い、アルビノーニのAdagio ト短調はメロディがシンプルでテンポが遅いという特徴があった。また、松田・厚味・伊東(2001)と松田他(1998)はそれぞれ、「元気になる音楽」と「心が癒される音楽」について調査している。これらの調査の中で上位にあげられた曲を聴き、譜面などから音楽的特徴を検討した。その結果、1)元気がでる音楽は、リズムが強調され、テンポが比較的早い特徴があった。2)癒される音楽については、リズムはそれほど強調されず、テンポがゆっくりで、メロディーがシンプルであることが分かった。これら考察から、Thompson et al.(2001)の沈静的気分誘導音楽と松田他(1998)の「癒し音楽」との間に、メロディとテンポに関して共通点が見つかった。
fig2
 以上の事から「癒し音楽」は、テンポがゆっくりでメロディがシンプルである沈静的音楽と考えられる。また、活性的な気分に誘導する音楽としては、テンポが早くメロディが複雑という傾向がある予測される。これらの仮説をfig3に、テンポとメロディが「活性」と「癒し・安らぎ」に与える影響として示した。本研究では、上記にあげたメロディとテンポの関係が、人の癒しにどのような影響を与えるのかを調査する。そのための方法として、テンポ(fast or slow)とメロディ(simple or complex)の異なる曲を四曲作曲し、それを被験者に聴かせ、その後の感情状態を測定する。
fig3

参考文献
板東浩・吉田聡、2002、現代のエスプリ、至文堂
Balch,W.R.,&Lewis,B.S.(1999).Music-dependent memory:The roles of tempo changes and mood mediation.Journal of Experimental Psychology:Learning,Memory and Cognitin,22,1354-1363
Balkwill,L.L.,& Thompson, W.F.(1999).A cross-cultural investigation of the perception of emotion in music:Psychophysical and cultural cues.Music Perception,17,43-64
エンヤ.(1998).ペイント・ザ・スカイ~ザ・ベスト・オブ・エンヤ,リットーミュージック
Husain,G.,Thompson,W,F.& Schellenberg,E.G.(2002).Effects of musical Tempo and Mode on Arousal,Mood,and Spatial Abilities.Music Perception,20(2),151-171
神山純一.(2001).水の音楽<ピアノのために>,全音楽譜出版社
栗原理恵子・伊藤義美、2001、音楽聴取がもたらす感情的変化に関する心理学的研究、名古屋大学情報文化学部 情報文化研究 14
松田真谷子,厚味高広,伊東康弘.(2001).如何なる種類の音楽を聞いたとき人は元気が出ると 感じるか.日本音楽療法学会誌,1(1),2001,87-94
松田真谷子,厚味高広,鈴木茂孝.(1998),「心が安らぐ」「心がいやされる」と感ずるのはどんな音楽を聴いたときか,日本バイオミュージック学会,Vol16,No2,201-207
松本じゅん子、2002、音楽の気分誘導効果に関する実証的研究、教育心理学研究、50、p23-32
Mozart.W.A.(1968),モーツァルト 二台のピアノのためのソナタとフーガ,全音楽譜出版社
谷口高士、1995、音楽作品の感情価測定尺度の作成および多面的感情状態尺度との関連の検討、心理学研究、第65巻第6号
谷口高士、2002、音は心の中で音楽になる[音楽心理学への招待]、北大路書房
Thompson,W.F.,Schellenberg,E.G.,& Husain,G.(2001).Arousal mood and the Mozart effect,PSYCHOLOGICAL SCIENCE,12(3),248-251
全音ピアノ名曲100選(上級編).(2004).全音楽譜出版社

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コメント

私、エンヤの曲大好きです。聴いていると思わず心が癒されます。
そして、気持ちが穏やかになります。
これほど究極の癒し系音楽はちょっと他にありません。

投稿: WildChild | 2005年7月20日 午後 08時39分

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